【能登半島地震被災地視察報告③】能登の「足」になりたい――元介護施設職員の夫婦の取り組み(2024年8月19日~21日)
介護タクシー「はる」との出会い
今回の能登視察にあたり、まずは車いすユーザーである天畠の移動手段の確保が重要でした。幸い、木村英子議員のリフト付き福祉車両は車いす2名分の乗車が可能だったため、1日目は木村・天畠が福祉車両、そして他のスタッフは普通車両のレンタカーで移動しました。
一方、2日目は地元の方にお話を伺いながら移動したいという天畠の思いもあり、地元の介護タクシーを探しました。幸運にも、JDF能登半島地震支援センターの方から、営業を開始したばかりの「介護タクシーはる」を取り上げた新聞記事を紹介いただき、つながることができました。
今年7月8日に営業を開始した介護タクシー「はる」の佐渡広紀さんと佐渡文さん。佐渡夫妻はともに中能登町の介護施設で働き、介護福祉士等の資格も持っています。広紀さんは育児とALSを発症した父親の介護のため、夜勤がないグループホームのデイケアに携わるようになりました。そこでデイケアに通うための「足」が極めて少ない現実を目の当たりにしました。
車いすユーザーが利用できるタクシーは少なく、料金も高い。ストレッチャーで寝たきりの状態の人は救急車しかない。また、ALSの父親が通院するための移動手段の確保も難しい。そんな現状に対して「自分がやらないとだめやん」と一念発起し、ご夫婦で介護施設を辞め、1年ほどの準備期間を経て起業にこぎつけました。ちなみに「はる」という名前は、もともと春(4月)に営業を開始しようとしていたためでしたが、元旦の能登半島地震の影響により3ヶ月遅れての営業開始となりました。
介護タクシーにさらなる財政支援を
はるはタクシーの役割にとどまらず、買い物の代行などの生活援助や安否確認なども行う救援事業、公共交通機関を使えない人で、緊急性の低い患者の搬送を行う民間救急の役割も担っています。利用する人は七尾市から能登病院に通院する方が多く、車いすユーザーだけでなく、透析患者や骨折など怪我をした人、コロナ患者の搬送も担っています。また、ALSの父親の通院にも活躍しているそうです。さらに復興中の和倉温泉が再オープンすれば、観光を含めたニーズも見込まれます。
タクシー料金は国に認められた運賃表のうち下限運賃に設定しているため、同地域の他のタクシー会社よりも安く利用できます(七尾市・志賀町・中能登町の方はタクシー券の利用も可能)。対応エリアは震災の影響で移動手段の確保が困難な奥能登から、金沢、県外までと広く、「とにかく必要とする人が気軽に使えるようにしたい」と文さん。介護施設での勤務経験から、移動だけでなく、ベッドから車いすへの移乗、外出時の身体介護を含めた手厚い支援が可能な点も強みです。
一方で、起業の際は国や自治体からの補助はなく、資金繰りには苦労していると言います。福祉タクシーの車両購入に対する国の補助金はあるにはあるようですが(地域公共交通確保維持改善事業)、リフト付き車両に対する補助金は上限が80万円になっています。また、補助金事業の存在自体がタクシー協会などを通じた周知にとどまり、新たに事業を立ち上げようとする個人には十分に周知されていないのではないかと考えます。
「せめてガソリン代の補助はほしい」と広紀さん。燃料費の高騰に対する補助はあっても、バリアフリーの観点で福祉タクシー事業所に特化した積極的な経済支援は車両購入の一部補助にとどまります。インクルーシブなまちづくりにおいて、障がい者や高齢者の移動を支える事業は欠かせません。今後は奥能登の「足」としても期待されるお二人の奮闘に接し、起業やその後の運営費に対する補助の拡充に取り組まなければと認識を新たにしました。
文責:黒田宗矢(天畠大輔事務所秘書)