重度障がい者はスポーツをどう楽しむの?-天畠大輔の体当たり!横浜ラポール(障害者スポーツ文化センター)視察報告
障害者スポーツ文化センター横浜ラポールとは?
障がい者のスポーツと文化の拠点として設立され32年(1992年設立)。障害者スポーツ文化センター横浜ラポールは、障がい者のスポーツ、文化、レクリエーション施設として、プールやサッカー、バスケ、フライングディスク、グラウンドゴルフ、卓球、ボウリング、さらにサウンドテーブルテニス、モルック、ボッチャ等が楽しめます。障がいのある人が安心して快適にスポーツを楽しめる設備が整っており、障がい者にとっては、スポーツを通じた社会参加、健康増進、仲間づくりの拠点でもあります。また、新横浜駅から徒歩10分、無料のリフト付き送迎バスも1時間に2~4本通っているため、アクセスも良好です。先日、その施設を視察いたしました。
職員・スタッフは、重度障がい者を受け入れるための高い専門性を有しており、ソフト面のバリアフリーが整っています。個々人の障がい特性を的確に把握しながら、利用者が安心して安全にスポーツやレクリエーションを楽しめる環境を提供していることがよく分かりました。ハード面においても、隣接する横浜総合リハビリテーションセンターと密に連携しながら、設備や機器を研究開発・整備しています。
身体障がい者のバリアフリー整備が充実していますが、最近では知的、精神障がい者の利用者も増えており、パニックになったときに落ち着ける個室の確保など課題もあるようでした。
なお、この施設は、身体障害者福祉法31条に基づく身体障害者福祉センターA型、そして34条に基づく聴覚障害者情報提供施設に当たります。しかし、ハード面の整備については、現在は国の財政支援が乏しく、自治体の財源で成り立っているそうです。スポーツ庁は施設のユニバーサルデザイン化を推進しているわけですので、国の財政支援を拡充していく必要性を感じました。
重度身体障がい者×車椅子はスポーツをどう楽しむの?
車椅子に乗ったままできるスポーツをご存知でしょうか。バスケやテニスは有名ですが、ボウリングやトレーニングマシン、プールはどうでしょうか。想像できない方もいるかもしれませんが、横浜ラポールでは車椅子に乗ったまま利用できるんです!今回はわたし天畠が実際にこの3つを体験してみました。
まず、ボウリング場へ。一見、一般的なボウリング場と変わりありませんが、スイッチの付いたマシンがあり、ボールを投げるのが難しい方でも、ボタンを押すことでプレイできます!
滑り台のような形をした「スロープ」という投球補助具と、スイッチを組み合わせたマシンです。補助者がボールをセットし、プレイヤーは左右に向いた矢印のボタンを押すことで、マシンの照準(ボールの軌道)を合わせます。そして、手のマークのボタンを押すと、ボールが押し出されます。UFOキャッチャーの要領に似ています。
他にも、段差の解消や取り外し可能な手すり、視覚障がい者のための音声誘導装置や点字得点表示装置も設置され、障がいに合わせた様々なバリアフリーの工夫が施されています!
次は、フィットネスルームへ。ここでは、車椅子に乗ったまま利用できるフィットネスバイク(自動ペダリングマシン)を体験しました!
バイクは障害の軽い人から重い人まで対応できる機種が用意されていて、私が利用した機種は車椅子に乗ったままできるものでした。ペダルに足を固定すれば、トレーニング可能です。車椅子からマシンに移乗する手間がないのはとても便利です。さらに、自力であまり足を動かせない人も電動アシストで漕げるようになっています。常に車椅子に座っていると、足がむくんでパンパンになります。車椅子のまま利用できるフィットネスバイクは、私の場合で言えばむくみ解消にも活躍しそうです!
そして、いよいよプールへ。
多目的更衣室は、車椅子や親子での利用がしやすいように広めのスペースが確保されています。また、リフトも付いており、車椅子からベッドへの移乗が必要な方にも配慮されています。
プール専用の車椅子に乗り換えます。筋緊張が強く、不随意運動が多い私ですが、座面ごと後ろに倒れるチルト機能があるおかげで、思っていたよりも安定感がありました。他にも障がい特性に合わせていくつかの車椅子が用意されていました。
胸とお腹の2箇所をベルトで固定するため、安心してプールサイドまで移動できました。
リフトで専用車椅子を吊し上げ、プールに入ります!吊るされる前は少し緊張していましたが、リフトの安定感とスタッフ・介助者のサポートがあり、思っていたよりも怖くありませんでした。この日は撮影のため、プールの利用不可日に体験したので、実際に入水はしませんでしたが、私くらい重度の障がい者でも安心してプールに入れることがわかりました。
※なお、ただいまプールの大規模改修で、再来年3月まで使用できないとのことです。
また、スポーツに関する設備以外にも、障がい種別に合わせ、誰1人排除せずに安心して活動できるよう様々な工夫が施されていました。たとえばエレベーターは、車椅子の人も使いやすい広いスペースが確保されているのに加え、災害時を想定し、聴覚障がい者向けに緊急連絡先のメールアドレスも貼っていました。
特に重度の障がいがあり、様々な配慮を必要とする人にとって、横浜ラポールは単なるリハビリではなく、仲間とともにスポーツに触れ、体を動かす楽しさを体感しながら、社会とつながる居場所にもなっていると感じました。私自身も視察を通してスポーツの可能性が広がり、「笑顔」になれました。また、スポーツは単なる遊びではなく、ゲームを通じて自己決定の力を育む機会にもなると思いました。
障がい者の居場所になっているのは、ハード面の整備はもちろんのこと、職員の力によるところも大きいと感じました。たとえばプールを体験する際、職員は私の障害状況を聞き取りながら、どうしたらプールで楽しめるかを考えて提案してくれました。できるかできないかでジャッジしてくるのではなく、どうしたらできるかを一緒に考える姿勢がありました。
こうした施設が機能として必要な一方で、障がい者に特化した施設の維持だけにこだわり過ぎては、街中に障がい者が出ていく機会が少なくなり、共生社会は遠のいてしまいます。たとえば、横浜ラポールのような施設でのノウハウを、他の一般的なスポーツ施設でも実践していけるよう、横展開する仕組みが必要です。スポーツ庁は、バリアフリーや合理的配慮の事例集を周知していますが、それをより発展させ、バリアフリー環境整備や合理的配慮のあり方を学ぶ職員向けの研修を行うなど、人材育成にも力を入れるべきです。障がいの有無にかかわらず、誰もが気軽にスポーツを楽しめる環境がハードとソフトの両面で実現できれば、多文化共生社会の一歩につながります。今後も調査や視察を進めながら考え、取り組んでいきたいと思います。